第七官界の中心で咆哮する

イチオシのカナダ発ポストアポカリプスBL小説『Fallocaust』をはじめ、英語のM/Mロマンス(BL)を中心に、BL小説などをレビュー。

【海外BLで学ぶ英語】Fallocaust 第1部のポピュラーハイライトの英文を解説するよ

Kindleのポピュラーハイライト、面白いですよね。世界中の読者がハイライトした文章の中で人気のものを表示してくれる機能です。ネタバレになるものは外してあるのでご安心を!

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はじめにー作品全体の文体・時制

章の後に名前が書いてあるのは誰視点の章かを示しています。Fallocaustは一人称・過去形で書かれています。地の文は現在形の場合もありますがこの作品は過去形です。

 

第1章 リーヴァー

1ページ

I would say that I never let harm come to him, but in this world harm comes to us all. 

ふりかかる火の粉は全て払ってやる。彼のために。そう言いたいが、この世界の人間で災難から逃れられる者などいない。

 

 

冒頭の文章です。小説の書き出しは作家の腕の見せ所で、有名な文章がたくさんありますよね。Fallocaustでは、主人公の住むGraywaste《灰色の荒野》の世界観が提示されています。 

●定型

I would say.... は自分の意見を述べるときの言い方。

●文法

let  X +原型V*1

let は「X(誰か/何かに)〜(原型V)させる」という意味の使役動詞。他の使役動詞としてはmake, have, getなどがある。let harm come でharm(害をなすもの)が来る・起こることを許すという意味。

●時制

letとcomeが現在形で、これは普遍的事実を述べている文章。

 

3ページ

I didn’t get the point in moping about death. I had eaten my parents years ago. 

人の死を嘆くのはまるで意味がないと思う。かくいう俺もとっくに両親を食っていた。

 

キリアンが両親の死から立ち直れていないことについてのリーヴァーの独白。Fallocaustの世界では人肉は貴重な食料です。肉親が死んだ時は親族が優先的に肉が回されるらしい。

●語彙

getはいろんな意味がありますが、ここでは「分かる」という意味。the point in

~は〜することのポイント(意味)

●時制

I had eaten my parentsは過去完了形(had + 過去分詞)です。

現在完了(have +過去分詞)および過去完了の意味は状態の継続です。この〜完了という呼び方は誤解を招くので適切じゃない感じがしますが、長らく使われてきているのでしかたないですね。

現在完了の意味:現在までその状態が継続しているという含意

過去完了の意味:過去のある時点でまでその状態が継続していたという含意

haveの動詞としての意味を考えると、「ある状態を持っている」と考えればシンプル。ここでは、地の文が過去形なので、意味的には現在完了のものが繰り上がり(?)で過去完了になっていると考えれば良いかと。

 

第7章 キリアン 64ページ

The greywastes were a basin overflowing with insanity, the very earth underneath me was only surviving because it was too mad to know it had died.

 

灰色の荒野《グレイウェイスト》は狂気に満たされている。この土地がまだ生きているのは、すでに死んでいることに気付けないほど気が狂っているからに過ぎない。

 

●文法

too ~ to do .... doするには〜過ぎる

●語彙 

the very~ まさにその・・・という強調の言葉

●時制

it had diedは過去完了なので現時点ですでに死んでいるけど気付いていないということ。

 

第13章 リーヴァー 149ページ

the great thing about abusing pain killers was that they also were pain killers. 

鎮痛剤乱用の良いところは、なんといってもそれが鎮痛剤であるという点だ。

 

どこか痛いところがあるときに痛み止めでハイになれば痛みも止まる訳ですね。ナイス。

●文法

[the great thing (about abusing pain killers)] までが主語。動詞に注意してどこまでが名詞とそれにくっついている修飾語なのかを意識すると文構造が分かって意味がわかる。

●語彙

abuseは虐待という意味がありますが、ここでは乱用。

 

第15章 

176ページ

“I have a lot of thoughts, mostly dark,” I replied. “The less you talk out loud, the more you talk in your head.” 

I heard the smallest of sighs escape his lips. " You say the most amazing things sometimes, and I bet you don't even realize it."

 

「俺の考えることなんてほとんどが陰惨なものさ」と答えた。「口に出していうことが少ないほど頭の中で会話しているものだろ」キリアンが小さな吐息を漏らすのが聞こえた。「ときどきびっくりするようなことを言うけど、自分では気付いてもいないんだろうね。」

 

無口なリーヴァーが名言を繰り出す。

●文法

the A(比較級), the B(比較級) ; AであればるほどさらにB

 

177ページ

Killian though… he was like a little lost kitten who had wandered into a deacon den. For some reason the deacon was crazy and had decided to take care of him instead of eat him. 

 

だがキリアンは・・・・迷子の子猫がデーコン**2の巣に迷い込んだが、どういう訳か頭がおかしいデーコンがいてそいつを食ってしまう代わりに面倒を見始めたというわけだ。

 

 なぜ誰にも同情などしない自分がキリアンを守り始めたのかに対する内省。やっぱり内向的な人間だと地の文が捗るよね。

●文法

he was like の like は like以下が「〜のような」という比喩ですよ〜という目印。日常会話でもよく使う。

e.g. "It was like I was a villan and he was a victim." 私が悪者で彼が被害者みたいなことになったわけよ。

thoughは文の最後につけて「〜〜〜だけどね」というように使うか、文頭に持ってきてThough 〜〜〜, ---- 〜〜〜ではあるが------- というように使います。

e.g. " I really don't care what he thinks of me though." 彼が私をどう思ってようと実際別に気にしないけどね。

 

 

第19章 キリアン 258ページ

 

There was something humbling about being reminded that the flesh you ate every day tasted the same as the flesh that rested underneath your skin. 

 

毎日口にする肉と自分自身の肌の下にある肉が同じ味がするという事実を思い出すと、どこか謙虚な気持ちにさせられる。

 

●文法

hambling は humble (動詞/謙虚な気持ちになる)のing形で形容詞的用法というやつで、somethingを修飾しています。つまり、something humblingは「謙虚な気持ちにさせるもの」ということ。

being reminded は remind (動詞/ 思い出させる)の受動態。

●語彙

flesh(名詞)は体、肉体、肉など。flesh and blood (血肉。転じて、精神的な事象に対して肉体的な存在を意味する。)とか言いますね。海賊BL小説の『Flesh and Blood』は面白いです。

 

第21章 キリアン 301ページ

 

It was sad in a way, all things pure eventually became clouded and contaminated. 

 

純粋なものも全て最後には濁って汚染されてしまうというのはある意味で悲しいことだと思う。

 

これがキリアンの独白なのが面白い。荒野にあってまだ汚れがふれていないのは君でしょうに。

煮詰めれば透きとおるもの妬みつつ部屋は杏の香に満ちてゆく   松野志

 

●文法

It is ~~~ that----- のthatが省略された形という理解で良いと思います。

 

第25章 キリアン

ここのハイライトは、実際に読んでビビり散らかして欲しいので載せません。読んでください。

 

第53章 リーヴァー

ネタバレ風味なので略

 

おわりに

やっぱり翻訳は面白いのですが、印欧語族と日本語は違いすぎるのでどこか不可能な試みって感じがしますね。そもそも一人称と二人称が日本語にするとどうしても違う色を帯び始める・・・。まあそれも含めて面白いと考えましょう。Fallocaust記事は自己満足なのでまた書く予定です。ひとりふたりでも楽しんで頂ける人がいれば幸いです。

 

*1:V: Verb(動詞)

*2:用語集を参照のこと