ポストアポカリプスBL「Fallocaust」第3章の読み方
2月くらいに3〜5章を範囲にしたオンライン読書会をやる予定なので、章ごとのガイダンスを書いておきます。前回が初回の読書会だったのですが、やり方が手探りでグダグダだったので今回はもうちょい頑張りますね😇
今回から初参加も歓迎です!
1〜2章は作者に許可いただいて翻訳したので、こちらからどうぞ。
『Fallocaust』はKindle Unlimitedでも、普通のKindleおよび紙の書籍でも読めます。そして「なか見!検索」で9章冒頭までお試し読みできる!
第3章の要約
残酷描写:なし
性行為:なし
読了時間の目安:15分(12ページ)
2年前のこと。アラスに王都から数年ごとに恒例の調査団が来る。リーヴァーは調査団が来た時はいつも町の外に出ていたため遭遇するのは今回が初めてである。グレイソンに、問題が起こったら調査団の長(mercer)を撃てと指示される。
導入部分の読み方
章の最初は大体が場面の説明なので読むのがちょっと面倒だし、新情報が多いので理解が難しい部分です。とりあえず語り手(一人称の「私」にあたる人物)の状況と場所を把握して、それ以外の細かい情報は無理に全て読もうとしなくてもOK。
Fallocaustでは章タイトルに名前が書かれていて、基本その人が語り手です。
導入
:最初の数ページはアラスの広場の描写と説明です。
主人公の様子
リーヴァーは広場にある小屋の屋根の上に積んである箱の上(高いところが好きなのね・・・)で昼寝をしている。
背景説明1
場面はアラスの中心にある広場(スクエア)。広場の周りは商店やパブが並んでいる。広場の中心にはファロコースト前の噴水があり、今は水源から水を引いて水汲み場として使っている。広場はアラスの繁華街であり、肉の配給や集会に使われる。
背景説明2
アラスの市長・グレイソンは祖父の代にここに定住して以来、市長を務めている。市民を尊重し礼儀正しいが、安全と秩序のためには冷酷な決定も下せるリーダーシップの持ち主。住民達に尊敬される強いリーダー。公明正大な人物。(25ページ)
背景説明3
調査団相手に舐めたことをすればブロック全体が掃討されることもある。普段は王の権力の影響から遠いところにいるアラスの住民にレオとグレイソンは言い聞かせる。
背景説明4
リーヴァーの住民たちへの軽蔑、サディスティックな嗜好、軍兵団を射撃の的にしていること
ストーリーライン
・市内放送で全住民にタウンミーティングの招集がかかる
・レオとグレイソンが住民達に王都スカイフォールからの調査団が来ることを伝える
・グレイソンがリーヴァーに成り行きがまずくなったらmercerを撃てと言う
・調査団が到着し、リーヴァーは射撃に適した背の高い建物(the Red House)へ
・広場を見やすい位置の部屋(他人の部屋)に侵入。赤ちゃんが激しく泣く
・ベランダから広場に入ってきた調査団にライフルで狙いを付けつつ観察する
・アラスの住人は順番に血液サンプルを取られて終わったらリストバンドを付ける
語彙
・mercer
調べても出てこないのでファロコースト独自用語と思われる。調査団の一番偉い人。
・suck up
大人しく言う通りにする(類語: behave 行儀よくする)
"I couldn't care less what King Silas is doing with this information."
couldn't care less; (これ以上に気にしないことはできない)→どうでもいい
"in her prison pen or whatever they called those things, shaking the bars like some sort of beast." (31ページ)
→crib(赤ちゃんベッド・ゆりかご)です。
コメント
リーヴァーに赤ちゃんが死なないように気を付けるだけの分別があって安心しました。しかし、このくらいの赤ちゃんに女も男も関係ないと思う。これだからいきがったガキは困りますね。
続きはこちら。
ポストアポカリプスBL『ファロコースト』1〜2章あらすじまとめ&解説
12月26日にオンライン読書会をしました!
参加してくれた人、ありがとうございました。私の準備不足ゆえにたいしたインプットが無くてすみません。次はもっとオーガナイズ頑張りますね。。。
風邪引いてるみなさん、暖かくしてお大事に。
気が変なので、今回の範囲(1〜2章)の世界観図と人物関係図を作ってみました(無駄中の無駄)。わたしの逃避時間が成仏できるようにみてやってください。
●世界観イラスト
●人物関係図
●今回出た話題・疑問点
1. 調べてもわからなかった表現《flash the sizors》
(1章2ページ)What he was so happy about I didn't know, didn't care really, but the prospect that this kid was sunny enough to flash the sizors was fascinating to me.
別スペリング《 flash the scissors》も含めて調べてみたけど分かりませんでした。
2. ピリオド、コロン、セミコロン、カンマの用法。
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3. 1章で出てきたドイツ語が分からなかった
"Where you find the unschuldig, you'll find the teufel."(レオの台詞)
英語だと、Unschuldig → innocent、Teufel → devil です。
次の"And just the devil I was looking for."からも分かる通り、デビル=リーヴァーです。つまり、イノセント(キリアン)が居るところにデビル(リーヴァー)も居るという意味。ファロコーストではスカイフォールとグレイウェイスト以外は滅んでいるので、外国語を知っているのは一部のエリートだけのため、外国語の単語を使う人は非常に珍しいです。
ドイツ語使いの参加者から、ドイツ語の単語を使うなら、「名詞の最初の文字は大文字にしなきゃね」との指摘あり。そう、ドイツ語の名刺は最初の文字を大文字にします。今後もドイツ語単語は出てくるのですが、痛恨のスペルミスがあります。。。
4.内容について
・リーヴァー君のコミュ障ぶり
いつリーヴァーがキリアンに話しかけるのか?この後もしばらく話しかけません。笑
・完結してない?
まだ完結してません!!!続きがめっっさ気になる!!!!
●読書会、次回以降どうするか
今回、特にわからない部分や解説の要望が少なかったので、次回以降はこちらで解説ポイントをピックアップしておいて喋る方が良さそう。
また、章ごとのあらすじなどをまとめておくと分かりやすそう。
【ポストアポカリプスBL 翻訳】Fallocaust《ファロコースト》第2章
第1章 Part 2の続きです。
Fallocaust《ファロコースト》第1章 Part 1 はこちら
【ポストアポカリプスBL 翻訳】Fallocaust《ファロコースト》第1章 Part 1/2 - 第七官界の中心で咆哮する
Fallocaust《ファロコースト》第1章 Part 2 はこちら
【ポストアポカリプスBL 翻訳】Fallocaust《ファロコースト》第1章 Part 2/2 - 第七官界の中心で咆哮する
Fallocaust《ファロコースト》第2章
「あ、あの、僕も手伝っていいですか?」
キリアンは静かに尋ねた。
これは全くの予想外だ。時々ドクの診療所を手伝ったりもしていたが、キリアンはほとんどの時間を一人で過ごしていた。まだ仕事を割り当てられていないので、両親が死んでからは誰もが好きなようにさせておいたのだ。
「もちろんだとも。さあ、入っておいで」グレイソンは陽気に答えると、キリアンを手招き、俺たち四人はかつて倉庫だった大きな建物に入った。
俺はすぐに落ち着かない気分になった。半分ほどはグレイソンがキリアンを追い払ってくれることを期待していたが、それは彼の性分ではありえない。やる気がある者なら、誰にでも喜んで教師役を買って出る。俺とレノを含め、ここの子供達のほとんどがグレイソンとレオに読み書きを教わったのだ。
一団は話しながら建物の奥へと向かった。内部は暗い。この建物は町の中でも珍しく電力が通っている場所だが、ケーブルは古く
大きな両開きの金属扉を抜けるとすぐに酷い臭いが鼻を突き、囲い場についたことが分かる。
キリアンが息を詰まらせるのを聞いてニヤリとした。俺も初めてここに来たときには同じ反応をするはめになったのだが、それでも内心で笑うのは止められない。囲い場の臭いは地獄のような酷さだ。ラットは不潔な生き物だからこそ
キリアンを襲ったのは酷い臭いだけではなく、騒音もだった。
キリアンが小さく驚きの声を漏らすのが聞こえた。囲いの中は薄暗かったが、夜目が効く俺は闇の中でうごめく塊を捉えることができた。
何匹いるのかは定かではない。放射線の影響で黒ずんだ肌は眼下の薄闇に溶け込んでいた。数百ほどだろうか。これは食肉処理用で、別のフロアには繁殖用の区画もある。屠殺場での最優先事項は病気の予防だ。もしそうしなければ、みながキリアンの両親や、これまでの被害者たちと同じ運命を辿ることになるだろう。
眼下にうごめく一群を見つめているキリアンの姿を目の端で捉える。普段は距離を取っているので、これほど近寄るのは稀だ。ふしぎと悪い気はしなかった。
ただ、キリアンが何をしに来たのかは謎だ。最後に見たときには家に帰るところだったし、そのあとは家にいるだろうと思っていたが。とはいえ、くだらない本を読むためにブロックから抜け出す常習犯であることを考えると、予想と全く逆のことをしたのは驚くには当たらないかもしれない。キリアンから目を離さずにいるのは、飛ぶ蝿を針で射抜くのに匹敵する難行のようだ。
「おーい、ふたりとも。こっちだ」グレイソンに呼ばれて、キリアンは少し背を丸め、すぐに通路の端へ足早に向かった。キリアンの奇行について頭をひねりながら、俺も続く。
今回は俺の方が尾行られていたわけか?
その考えを振り払って、もう一つの扉を抜けると、数人の男女が二匹のラットのかたわらに立っていた。ラットは手足を縛られ、大きなプラスチック容器の中で鳴き声をあげている。夜の配給分の肉の方は茶色の紙に包まれ、ブロック中に配る用意ができていた。デーコンの餌は生き餌だ。解体する手間が省けるし、奴らは餌が生きていようが死んでいようが構いやしない。一方ブロックの住人たちは、解体済みの配給肉を毎週受け取ることになっている。
「準備は良さそうだな。ここのみんなの分は確保したか?」グレイソンが尋ねつつ、こちらに手で合図する。それに従い、置いてあるプラスチック容器の一つをつかむと荷積み用のスロープへ引きずっていった。
「おうさ。もう配給カードのスタンプも押したよ」作業をしていた女のひとりが頷いて答えた。
ゲイリーが容器を運ぶ俺に手を貸し、背後ではグレイソンとキリアンが別の容器を動かそうとしている音が聞こえた。容器の積み込みには専用のトロリーがあるのだが、それなりの人数が居れば単に手で運ぶ方が簡単なのだ。
トラックのエンジンは、不満げにうなり声をあげて息を吹き返した。長年の酷使とずさんな修理で使い古されている。世界の終わりからここにあり、大多数のトラックや自家用車が生き残れなかった時を生き抜いたつわものだ。このトラックも含め、まだ動く車両はみな、ファロコーストが起こったときに何かに覆われて隠されていたものらしい。野ざらしから、また戦争で荒んだ人間たちの略奪から逃れたわけだ。その人間たちも、放射線に晒されて死んだのだが。隠されていなければ、道に転がっているスクラップのように錆びて朽ち果てていたことだろう。
容器をトラックに積み込むと、口を閉じてラットの酷い体臭をよけいに吸い込まずに済むように気をつけながら、容器を足で押して荷台の奥に押し込んだ。ラットはホースで水をかけて消毒を済ませた後でもまだ臭う。そしてトラックの屋根に飛び乗り、腰を下ろした。グレイソンとキリアンが容器を持ち上げ、他の解体作業員が配給肉の箱を積み終わるのを見ていた。
キリアンは他の皆が降りた後もトラックの荷台に留まり、ホイールの出っ張りに座った。グレイソンはテールゲートを閉め、ゲイリーと他の者たちに挨拶を済ませる。キリアンはゲイリーに礼儀正しく礼を言い、俺は頷いて見せた。しばらくしてトラックは北ゲートへ向かって動き出した。
トラックの屋根に座ったことで、落ち着かない気持ちが少し和らいだ。キリアンはブロックの風景が通り過ぎるのを眺めている。トラックに乗るのはこれが初めてなのだろうか。つかまる手を強く握りしめて関節が白く浮かび上がっているのを見ると、そうであっても不思議はない。
十分に落ち着いて見えるが、この角度では顔は見えなかった。後頭部に金髪がそよぎ、白い肌に冷たい風が吹き付けていた。
俺たちの後を追うのに本と上着をそのあたりに投げ捨ててきたに違いない。馬鹿じゃないか?
だが、こいつが俺たちの後をつけることにしたというのは面白い。そう考えて微笑んだ。俺について回られて悪い気はしなかったということか? もしかすると、俺が付いて回っていることに特に興味がなかっただけかもしれないが。いつかは彼に話しかけることになると分かってはいたが、今日はまだその時ではない。
トラックは軋みながら止まった。グレイソンがエンジンを切るのと同時に、トラックから石畳の道に飛び降りた。グレイソンがトラックの後ろに回ると、レオが背後から荷下ろしに使うスロープを引きずって来るのを待っていた。
「おや、犬っころの餌やりをやってみることにしたのかい?」レオが声を掛けると、キリアンははにかんで微笑み、グレイソンが積荷を下ろすのを手伝い始めた。
「ええ」キリアンは静かに答え、自信なさげに肩をすくめた。「他にやることも無いので。」
「ああ、なるほど。そりゃあ他に理由なんて無いよな」レオは笑ってウインクして見せた。レオのほのめかしにすぐに顔が赤くなる。荷下ろしを素早く手伝うと、キリアンともレオとも目を合わせないようにした。
ちょっとした悪態の後、容器を全てトロリーに積み込み、急傾斜のスロープでデーコンの囲いの上まで運んだ。この段になると、ラットどもは容器の中でパニックに陥り泣き叫んでおり、それをつかんで外に引っ張り出す。
レオは下に残って今週の配給を配り、俺とキリアンの分を確保しておいてくれた。それ以外の三人は、ゲート上でデーコンを見下ろしていた。
デーコンを間近で見るとすると、やつらの頭は人の胸の高さほどになる。ほとんどが灰色だが、幾らかは白っぽいのや黒いのがいる。放射線を浴びた生き物はみなそうなのだが、毛皮はところどころ剥げていて、毛が無い部分は炎症を起こした皮膚を引っ掻いた傷とかさぶたで覆われている。ブロックで保護されている猫と混血のデコドック以外で毛が生えそろった生き物は見たことがない。放射線は生き残った全ての生き物を蝕んでいた。
「それじゃあキリアン、今からゲートを開けてデーコンを餌場に入れるから、仕切りの板をどかしてラットを餌場に落としてくれるかな。リーヴァーが見ていてくれるから」グレイソンは励ますように笑って言った。
「たぶん……そんなに難しくはなさそうですね」キリアンはゆっくりと言ったが、自信無さげだ。俺は微笑んだ。ずっと本ばかり読んでいる気かと思っていたので、彼がやっと仕事にやる気を見せたのは喜ばしい。
キリアンがゲートの障壁にある穴を塞いでいる板を取り外すのを注意して見ていた。アラスを囲むコンクリート壁の上には、歩道と120cmほどの高さの障壁がめぐらされている。この障壁は、人がデーコンの囲いに落ちるのを防ぐと共に、スナイパーが銃をセットするのに適している他、防御の役割も果たしていた。
キリアンは一匹目のラットの縄をつかむと、障壁の穴へ押しやった。ラットはもちろん叫び声を上げ、キーキーと不明瞭な言葉のようなものを発して抗う。目隠しとくつわをかまされていても耳は聞こえているので、デーコンが下に居るのを分かっているのだ。
キリアンはこいつを障壁の穴に押し込むと、下に向かって蹴り落とした。なかなかやるじゃないか。
俺たちはみな
ラットが生々しい音を立てて地面に落ちるのを観察した。うめき声を上げ、身悶えする。そして、ゲートが軋みながら開いた。
デーコンどもが最初のラットに飛びかかる間に、今度はメスのラットがその上に落とされた。狼どもは群れをなしてすぐに食い尽くすので、ラットは縮み上がる暇もないほどだった。
一瞬にしてばらばらにすると、各々が手や足を咥えて餌場からメインエリアへ獲物を持ち帰った。他のデーコンはその場に留まり、残された死骸を喰らいながら、互いに威嚇しあった。
キリアンは身震いして殺戮から目をそらした。俺はこの光景を面白いと感じ、注視し続けた。ああ、自分がおかしいのは自覚している。人や動物が引き裂かれるところを数限りなく見てきたが、嫌な気分になることはなかったし、覚えている限りそう感じた覚えはない。レオとグレイソンはラットの喉笛を掻き切って笑っている血みどろの二歳児だった俺を記憶していることだろう。
それは今でも変わっていない。
「リーヴァー、手伝いご苦労さん」グレイソンが後ろから声をかけてきた。
餌場から視線を移すと、グレイソンの後をついてスロープを下り表通りに降り立った。アラスの住人たちは、配給を求めてトラックの周りに人だかりを作り始めている。俺は人混みにいるのを好まないので、自分の割り当てを取るとさっさと家に足を向ける。
俺の意識は再度キリアンに戻った。俺の中の一部分は、彼のところに走っていって初めてデーコンに餌をやった感想を聞きたいと思ったが、それはできない。これまでもそうだったように、ただ離れたところから観察しているだけだった。
明日到着するというキャラバンについて思いを馳せる。どの方角から来るのか正確には知らないが、南か西のどちらかからに違いない。南からの道を通るのはほとんどが傭兵団だけなので、きっと西だろう。南の道は工場や研究所に通じており、皆が避けるルートだ。
キリアンの後をついて歩いている間、自分が顔をしかめていることに気付いた。考えていることがこれほどあからさまに顔に出るというのは笑える。俺が顔をしかめたのは、南にある工場や研究所で起こっていることについて考えたからだ。多くの人間が工場でやっていることを悪とみなしているが、俺はそうは思わない。奴らの仕事のおかげで飯にありつける人間がいるわけだし、肉を解体する手間を省いてくれるじゃないか。特に自分たちで蓄えを持つほど大きくないコミュニティにとっては恩恵だろう。
このブロックでは自分たちでラットを解体しているが、グレイウェイストの他の地域では工場が代わり加工して消費者に提供している。王の所有する会社の一つ
とは言っても、それは俺が表情を曇らせた理由ではない。俺が拳を握りしめたのは、研究所から王を連想するからだ。
俺がサイラス王について知っていることは、伝聞に過ぎない。会ったことはないし、写真すらろくに見たことがない。だが、こいつがグレイウェイストの支配者であるのは周知の事実だ。
奴はグレイウェイストの経済を掌握している。なぜなら、大量生産の手段を持っているのは今や王のみだからだ。また、武力でも支配下に置いている。大規模な軍事力を持ち、何千もの
グレイウェイストとその先に広がる荒野は広大だ。どのくらい広いのかは興味がないので知らないが、とにかく広いことは確かだ。王は人類を三つの区分に分けている。ラットは放射線の影響で黒ずんだ肌の亜人種で、食料として飼われている生き物だ。レイバーはラットよりは俺たちに近い見た目をしているが、ガイガーチップを埋め込まれたことがないか、失くしてしまった人間で、放射線によって狂気に冒された危険な生物だ。通常、見かけたらすぐに撃ち殺す。最後にアリアンというのが普通の人間のことだ。
アリアンは俺たちの類い、つまり正気の人間たちというわけだ。サイラス王がグレイウェイストを支配し始めた時、生かしておいてやると決めた人類である。俺たちは王の臣民であり王の持ち物というわけだ。アリアンの子供が生まれると、ガイガーチップという小さなチューブ状のデバイスを埋め込まれる。これには放射線を無効化する物質が含まれている。高機能なものではビタミンのサプリメントを放出する機能もあるとかいう話だ。
人口動態調査のため、数年ごとに王の調査団が派遣されてくる。奴らは南の方角からやってくる。研究所を持つ Skytech の科学者たちとはお友達だろうから、恐れる必要はないというわけだ。
調査団は軍兵団に厳重に警護され、ブリーフケースを携えてやってくる。見つけられるアリアンは全て調査するのだ。最後にアラスに来たのは数年前、キリアンの家族がくる前のことだ。俺が調査団に行き遭ったのはこの時が初めてだった。それまではグレイソンとレオは事前に俺を数日間町の外に避難させていた。二人が俺が軍兵団に近付くのを嫌がったのは、俺が軍兵をライフルの的にして楽しんでいるからだったのだが。
調査団との遭遇は、サイラス王につながるものとの初めての接触だった。そしてその時に、このグレイウェイストには権力者が存在し、そいつは俺の生活に実際に影響を与える力があるのだということを実感したのだった。この件があるまでの俺は、かなり厳重にこの類のことから守られていたに違いない。もちろん王が存在するということは知ってはいた。俺たちグレイウェイストの住人は、何かにつけ王を腐すのを好んだ。王都スカイフォールからの亡命者から色々な話を聞いてもいた。しかし、王の権威の延長にあるものと出会ったのは、たまに見かける兵士を除いては人生で初めての経験だった。
キリアンが今はひとりだけで住んでいる自宅に向かうのを、距離を置いて付いて行った。彼の家は俺の住んでいるところから徒歩五分ほど、半ブロック先の袋小路にある一軒家だ。ベッドルームが三つの二階建てで、一人で住むには大き過ぎるのだが離れがたいようだ。思い出とか、そういうことだろう。レオが言うには、キリアンの両親が隔離小屋に映される前の家の中は、蛆虫が湧き、体液が至る所に飛び散ってまるでお化け屋敷のような状態だったらしい。キリアンは両親の面倒を自分だけで見ようとしていた。みな、彼が感染していなかったことに驚きを隠せなかった。
キリアンが家の中に入り内側から鍵を掛ける音を確認した。いつものごとく俺の思考は彷徨いだした。家から数フィートのところにあるスクラップ車両の上に腰掛け、王の調査団と初めて遭遇した二年前を思い出していた。国勢調査の日のことを。
長い話になるが、俺の人生で重要な日だったことは確かだ。頭の片隅で、家の中に入ってビール片手にキリアンに話して聞かせたいという気持ちが起こったが、思いつくと同時に却下する。そのうちに、そのうちにだ。今はこうして闇の中に潜んでいるだけでいい。
俺は廃棄車に背をもたれさせると
また一口吸い込むと鎮静効果が暖かく体を包み、俺の思考は自分の内側に滑り込んでいった。
(ブログ主コメント)
いやいや、話しかけろよ(苦笑)パパ達は微笑ましそうにしていますが、普通に怖いですよね? まあでもここまで読んでみると、リーヴァーは対人コミュニケーションに相当難がある挙動不審なティーンエイジャーって感じですね。キリアンがどう思っているのかは分かりませんが、“尾行返し”を仕掛けてきたところを見るとビビり散らかしてるわけではなさそう。そしてアラスの周辺やグレイウェイストの様相については大体説明されました。この世界に存在している産業や物品、生き物やテクノロジーについては別記事の用語解説がありますので、よろしければご覧ください。
この後の読み方について
さて、この後の章では二年前の調査団がアラスにやってくるエピソードが挟まれます。事態が急展開を迎えるのはその後になりますが、だんだんと謎が見えてきたり、リーヴァーの戦闘能力が日の目を見ることになりますのでグイグイ読めてしまいますよ! 下に章立てを掲載してみましたが、7章にやっとキリアン視点が入ってきます。Amazonの本文プレビューで第9章冒頭まで読める仕様なので、ぜひ挑戦してみてください。
第3章の読み方に関してはこちらの記事をご覧ください。
ポストアポカリプスBL「Fallocaust」第3章の読み方 - 第七官界の中心で咆哮する
Fallocaust 章立て(〜7章)
Fallocaust《ファロコースト》はKindle Unlimited/ Kindle/ 紙の本で読めるよ!↓
【ポストアポカリプスBL 翻訳】Fallocaust《ファロコースト》第1章 Part 2/2
第1章 Part 1の続きです。
Fallocaust《ファロコースト》第1章 Part 1 はこちら
人物紹介(イラスト付き)↓
Fallocaust《ファロコースト》第1章 Part 2
胸を締め付けていた緊張が即座にほどかれ、安堵から大きなため息をついた。そして立ち上がる。
「ご明察」別の男の声が笑いながら答え、視界に現れた。ブロックのリーダー、そして俺にとって親に一番近い存在———グレイソンが手で日差しを遮りながらこちらを見上げた。
「うむ、悪ガキが見えるぞ」
笑って言う。そして明るい色の頭が隣に現れた。グレイソンのパートナーのレオだ。ふたりは面白くて堪らないといった様子で揃ってこちらを見ている。
「
俺は不満の声を上げ、ライフルの端でこめかみを掻いた。キャラバンはこの辺境では珍しくいつでも歓迎されるが、それなりのリスクも伴う。ほとんどの場合なんら対処できないものではないが、キリアンのことを考えると警戒してし過ぎることはない。
トロイの木馬はもっとも厄介な問題だ。レイバーや悪意の人間が商人を装って侵入し住民を攫って身代金を取ったり、金や物資を強奪する。そういったことは長い間起きてはいないものの、警戒を解いたが最後、町中が虐殺されて食われることになる。
「キャラバンが来るのは冬先以来だな」
ライフルをホルダーにしまうと踵を返し、岩の上からついさっき這い進んできたばかりの方向へ向かって歩き出した。素早くほとんど足が地面に触れないような足取りで、他に目もくれずにぐんぐんと元来た道を辿っていく。
「キャラバンに在庫がたくさんあることを祈るよ。医薬品が足りていなくて、ドクがぶつくさ言い始めているからな」グレイソンが背後から言った。それに対しては肩をすくめ、3メートルほどの急斜面の上で少しの間止まると、岩から岩へ軽々と飛び移りほとんど音を立てずに下の地面に着地した。
振り返って腕を組むと、他の者たちが注意深く斜面を降りるのを焦れて見ていた。
「そのうぬぼれ顔を引っこめろ、敏捷なやつめ。誰もがお前みたいに若くて無鉄砲じゃないんだ」グレイソンが不満げに言う。ちょうど40歳になったばかりのグレイソンは岩のように頑健ではあるものの、俺ほどに俊敏ではなかった。
俺のようなやつは誰一人としていやしない、とひとりごちる。ブロックの外に忍び出るようになって以来、子供の頃からずっとこの岩をよじ登っていたのだから。第二の天性と言ってもいいだろう。
グレイソンとレオが一緒に最後の岩棚から地面に飛び降りるのを見ていた。グレイソンは黒髪の生えぎわから汗を拭うと布をレオに渡した。もう一時間もしないうちに日がくれるというのに暑い日だ。
薄汚れた灰色の空から目をそらし、断崖にいるキリアンを見つめた。
その様子は見るだに情けないものだった。重い本が詰まったリュックサックが背からずり下がり、斜面を降りるのに苦労していた。手助けしようと体がぴくりと動いたが、思いとどまる。丸腰で町の外に出る子羊を守ってやるのはいいとして、四六時中エスコートする予定は無い。顔から地面に着地しようと死ぬわけではないし、重いものを持って歩かないことを学ぶにはちょうど良いかもしれない。
だが彼が転ばずに地上に降りたときには安堵した。周りの人間が苦しむのを見て楽しむ俺にしてはおかしなことだ。
もう少しさっさと降りきって欲しいものではあったが。彼が地面に降り立った頃にはすでにレオとグレイソンは五、六メートル先を歩いていた。群れから離れて歩くのは賢い選択ではないが、俺も他の二人も脱落者を待ってやるタイプの人間ではない。脱落者は食われる。そして脱落者が食われていれば捕食者を足止めできるのだ。
キリアンは深く息を吐くとリュックサックの位置を直した。彼が歩き始めると俺は一歩下がって峡谷の斜面を見ていたが、目の端で彼がこちらを見ているのを察知していた。ほんの数歩先をよい香りをさせながら通り過ぎる。彼は目を合わせようとしていたが、俺はそちらに向き直って話しかけたりはせず、彼の存在に気付いた様子すら見せなかった。
なぜかって? それは俺にも分からない。俺はそういう性格だし、向こうも空気を読んでいた。
キリアンが数歩まで通り過ぎたとき何も追ってきていないことを確認し、俺も後を追った。背後から攻撃を受けるなら、標的は自分である方が好ましかった。少なくとも俺は武装しており戦闘経験も豊富だ。
背後を確認しながら、こちらに向かっているキャラバンについて考える。アラスへの訪問者は稀だ。そしてそれがこのブロックが安全である理由だろう。
普通のキャラバンはアラスまで来ることはない。傭兵ですらここまで来るとなればかなりの金額を要求する。それほどこの峡谷地帯は厳しいのだ。峡谷はたくさんの危険を育み、内に抱えている。険しい岩々は狂気に冒された野人——レイバーと呼ばれる——を隠し、深い洞窟はラットが惨めな生から逃げ出して隠れ潜むのに最適だ。しかしこれらの
アラスの北の峡谷は、四方に何マイルも広がる岩の厚板が作る巨大な迷宮だ。峡谷は深く急峻で、巨石が広大な谷底に永久の影を落とす。チフス川はどこかでその谷底に流れ込み、最終的にはアラスから数百マイルも離れたチフス湖に至ると言われているが、それを見て帰ってきたものはいない。地形でいえば南はそれほど悪くはないが、恐怖はこっちの土地にも息衝いている。
アラスの南、俺たちがブラックサンズと呼ぶ土地は
ゲートが音を立てて開くの聞いて目を向けた。少し先を行くグレイソン、レオ、そしてキリアンは安全な町の中へ入って行くところだった。
「リーヴァー、他に出ている者は?」ゲートに近づくと歩哨の一人に話しかけられた。
「いない」とシンプルに返す。
彼女はサディといって、俺と同じ歩哨の仕事をしている。ガキの面倒を見るため、シフトは半分だが。
サディが俺の背後でゲートを閉め始めると、錆びた金属が擦れ合う馴染み深い音が聞こえてくる。アラスに入るには二つのゲート通る必要がある。どちらも手動のクランクで開け閉めするのだが、間には “隔離エリア” と俺たちが呼ぶスペースが設けられている。ここには三つ目のゲートがあり、これはブロックを囲むフェンスの中、
「今日はシフトに入ってる?」俺が二つ目のゲートを抜けるときサディが聞いてきた。頭に付けていた
「いや、今夜は非番だ」そう答えながら、キリアンがメインストリートを歩き出すのを見ていた。家に向かうのだろう。
「そう。じゃあ良い夜を」これに対して頷くと道を歩き出した。グレイソンが声をかけてきたのは、キリアンの後を追おうとしていたときだった。
「リーヴァー、デーコンに餌をやるのを手伝ってくれるか?」
キリアンから目線を引き離すと肩をすくめて「ああ」と短く答える。キリアンを追いかけて家に帰り着くのを確かめたい気持ちがしたが、危険はないと分かっていた。
盗んだソーダボトルから一口水を飲み、グレイソンを追って
屠殺場はまさしくその名の通りの場所だ。大きな倉庫の廃墟で、食料にするラットを育てている。アラスの労働力のほとんどはこの屠殺場で働いており、住民とデーコンに十分な食料が行き渡るよう気を配っていた。これはフルタイムの仕事で、病気が発生しないよう清掃し、ラットの数を十分に保つよう交配と捕獲を行なっているが、ここの従業員を羨みはしない。ここの酷い臭いは堪え難い。デーコンどもは臭いなど気にはしなかったが。食い物は食い物だ。やつらは腹が減れば自分たちすら食うだろう。
背後を振り返って見ると、獰猛な
野生のデーコンはひどく獰猛な上、放射線のせいで気が狂っているのだが、俺はやつらを気に入っている。歩哨としてアラスを守るのに、警戒の目が多くて困ることはない。よそ者がブロックに近付けば激しく吠え、近くにいたら耳鳴りがするほどだし、やつらの唸り声は肋骨を震わせる。混血の
デーコンの群はアラスの町中から高4.5メートル、厚さ60センチのコンクリート壁で隔てられている。歩哨はこの壁の上を歩いて監視をするのだ。デーコンは、町をぐるりと囲む壁と外側のフェンスの間の5メートルほどの空間に放し飼いにされている。コンクリート壁がデーコンから町の住人を守り、レーザーワイヤに覆われたフェンスが大狼どもが荒野にさまよい出るの防いでいる。
ゲートを訪ねることなくアラスに侵入しようとする命知らずは、それなりの障害を乗り越えなければならない。この番犬たちはその辺りを歩かせておくには危険すぎるので、壁とフェンスで隔てるのは人の方が不用意に近付かないようにする意味もある。
俺はグレイソンに続いて屠殺場へ向かっていた。その建物はラット・ストリートと名付けられた道沿いにある。アラスでは通りの名を示した案内標識はとっくに失われていたが、道路標識やスクラップ車のフロントガラスにスプレーでペイントすることで標識としての機能を持たせていた。俺の家の前の道は、アヘンの粉を散らしたホームメイドのタバコの名に因んでクィル・ストリートと名付けた。俺が住み着く前は別の名で呼ばれていたが、ある時飽きて新しく名前をつけることにしたのだ。ただ、グレイソン、レオ、そしてレノ以外の誰も俺の住んでいる場所を知らないよう気を付けている。その方が安眠できるのだ。
ラット・ストリートを数ブロック歩くと、倉庫の駐車場に近付く。しかし駐車場というのは名前だけで、舗装はずっと前に壊れてかなりの部分が剥がれていた。錆び付いた車と廃棄物は脇にどけられ、配給トラックが通れるようになっている。積み重ねられた廃棄物デブリはアラスの他の場所と同様に野良猫の住処になっていた。猫はガイガーチップによって放射線の影響を受けずに済んでいる数少ない動物のうちの一つだ。猫はラドラットやスケイバーの数を抑えるのにも役立っている。
いくつかの使用可能な車とトラックが建物の前に止まっており、荷積み場にはさらにいくつかの車両があった。荒野には動く車はほとんどなく、大半が錆び付いている。動く車は貴重であり、欠かせないものだ。アラスでの最も厄介な問題は、ラットが集団で逃走して暴れることだが、ことが起こった場合に射撃練習をできるのは面白い。
アラスの住人はみな徒歩で移動する。道の多くは廃棄車やデブリに塞がれていて、車を通せるのは屠殺場と中央スクエアの間だけだ。
ブロックの外、
グレイソンは屠殺場の正面扉を叩き、二人とも一歩下がって待った。しばらくすると二重の金属扉が開き、白髪混じりの男が現れた。
「ああ、犬どもの餌の時間だな」と男はいくつか歯の欠けた笑顔を見せた。この男は俺が覚えている限りずっと屠殺場のボスだった。
「その通り」グレイソンは快活に答えると中に入ろうと踏み出したが、老ゲイリーは立ちふさがって腕を組み、怪訝そうに眉をあげて尋ねた。
「彼も入るのかい?」頭を傾げて俺の後ろを見ながら言った。グレイソンと俺は振り返り、ゲイリーの指し示している所を見やった。
俺は驚きに目を見開いて見つめた。俺たちの十歩ほど後ろに立っていたのは、ここで見るとは全く思っていなかった人物だった。
(ブログ主コメント)
やっとこの世界の様子が分かってきました。この特殊な放射線で満たされた世界では、色々と変わった生き物がいるようです。今回でだいぶ解明されましたが、今後もちょこちょこと説明が挟まれます。カナダの荒涼とした自然の地形(はい、舞台はカナダのブリティッシュコロンビア州です)と恐ろしいモンスター。登場人物たちはかなり厳しい環境に生きてますね。そしてリーヴァーはこれまた社会性に問題がありそうな人物で……。
まだまだ序盤ですが、第二章も訳していきますので、原作のご購入・Unlimitedでのご利用、よろしくお願いします。また、誤字脱字、意味がわかりにくい部分、その他ご指摘などありましたらコメントやツイッターなどでお知らせいただければ幸いです。
続きの第二章はこちら
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【ポストアポカリプスBL 翻訳】Fallocaust《ファロコースト》第1章 Part 1/2
み、みんな〜〜〜! 作者に「Fallocaustが最高すぎて日本でも流行らせたいので導入部を翻訳させてほしい」と頼んだところ、快諾していただきました!!!😭😇🙏
嬉しすぎる〜〜〜〜!というわけで光の速さで翻訳しました。ぜひ読んでください!続きのPart 2は今校正を頼んでるのでできたらアップしますね。人物紹介(イラスト付き)等は過去記事にありますので、気になる方はご覧くださいませ!
ちなみに『Fallocaust』はKindle Unlimitedでも、普通のKindleおよび紙の書籍でも読めます。そして「なか見!検索」で9章冒頭までお試し読みできるという太っ腹ぶり(本文の10%が自動的にサンプルになるらしいのでAmazonの仕様みたいです)。
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あらすじ
230年以上前、狂王サイラスによってもたらされた大破壊《ファロコースト》により人類の大半が死に絶え、地上は焦土と化した。
放射性物質に汚染された
第1章 での注意が必要な表現に関して
人死におよび人肉食に関する回想があります。性描写はありません。
Fallocaust《ファロコースト》第1章 Part 1
彼の名はキリアン。俺がどうしても守らないではいられないやつの名前だ。むこうとしては余計な厄介者が付いて回るのは迷惑だろうが、彼がきちんと自衛できると信じるにはまだ早かった。キリアンの両親は “
俺たちの住む小さな町、アラスは “ブロック” と呼ばれる居住区で、ごく限られた人々にはブラックサンズに行く前に立ち寄る安全な町の一つとして知られている。ごつごつとした岩が何マイルも続く荒地は
まあ、何事もいいことずくめとはいかないものだ。俺はといえば、外の世界で何が起こっているかなどには全く興味がない。自分とキリアンの安全な生活を守るので十分に忙しいのだ。
そう、そのキリアンの話に戻そう。この家族は数名の傭兵を伴ってこの町に現れた。距離と道中の危険を考えると護衛を雇うのにひと財産かけたに違いない。当初は彼に目もくれなかった。その頃はこの地域の探検に明け暮れており、彼の存在に気づくほど街中に留まってはいなかったのだ。彼は少し無口に過ぎるだけの痩せこけた金髪の子供に過ぎなかった。しかし今では彼から目を離すことができなくなっている。
俺が一定の距離を置いているのは、彼が他の住人たちに倣って俺に近付くべきでないことを知っているからだ。キリアンは、この終末を迎えた後の地獄において可能な限りにおいて軟弱であると言っていいだろう。銃の撃ち方も知らず、唯一の特技は周囲から見えない透明人間になることぐらいか。
見目はなかなかだが、それは特技とはいえないばかりか、かえって欠点にすらなり得る。荒野の住人にとっては、見目麗しい
何がそんなに嬉しいのかは知らないし特に興味もないが、そんな笑顔を見せる明るさに魅了された。俺が笑うのは誰かの喉笛をかき切るときだけだが、彼に注目するようになるにつれ、よく心の中で微笑むようになっていった。
ここに住む他のやつらは、控えめに言っても全く堪え難い。右も左も分からないような馬鹿どもだ。読み書きもできず、レイバーと違うのはフォークやナイフを使うことぐらいだろう。だがキリアンは違う。彼は何やらものを知っているようで、新鮮な気持ちにさせられる。まだ遠くから見ているだけだが、俺にとってはそれが当たり前だし、人と話すのは何としても避けたいほど嫌いなのだ。
前にも言ったように、ここの住人はみな俺を避けることを知っていて、キリアンもそれをわきまえていた。俺の存在など無いかのように振舞い、こちらも同じように無視していた。俺は歩哨の仕事をこなしながら見張りをし、彼も両親と共にここに来て以来、あの笑顔を浮かべ、妙に明るい様子で行動していた。
だが、やはりその明るさはこの世界にはそぐわず、この世の現実がキリアンを捕らえることになる。
両親を食ったときから、全てが変わったのだ。
アラスのリーダーであるグレイソンは俺の育ての親で、このブロックには珍しくまともな教育を受けた人間であり、それなりの道理をわきまえていた。だからキリアンの両親を撃ち殺す前に、パートナーのレオにキリアンを散歩に連れ出すように言った。
キリアンの両親はトライデスという病気に罹っていた。悪くなった貯蔵肉を食べたことが原因だ。この病気にかかった人間を前にも見たことはあったが、それでその酷さが減じる訳ではない。激しい嘔吐と暴力的な体の震え、腐った皮膚が焼ける音が聞こえそうな高熱……。あの臭いを忘れることはできない。
死が避けられないことはみな分かっていた。長く生かしておけばおくほど彼らの肉が悪くなってしまう可能性が高かった。ここでは食料は常に不足しており、良い肉を無駄にすることはできないのだ。
愛用のM16ライフルでは後始末が面倒なので、グレイソンの10mm ピストルを受け取った。派手な流血を好む俺なら選ばない武器だが、今回のようなデリケートな事案(とグレイは言っていた。俺の言葉でないことを申し添えておく)には必要なことなのだろう。
あの時のことははっきりと覚えている。母親は目を閉じており、顔は汗ばんで顔色は青ざめた灰色に変色し、隔離小屋の中で激しく震えていた。父親の方は吐瀉物を喉に詰まらせてすでにほぼ死んでいるような状態だった。
躊躇いはなかった。今まで一度も躊躇ったことなどない。
頭に一発ずつ、グレイの要望通り中身の飛び散りは最小限に留めた。痙攣が収まると、グレイソンは解体作業員を呼んでキリアンが無残な死体を見ずに済むよう処理場に運ばせた。
そうして次の配給日にはみなが良質なアリアンの肉を受け取ることになった。まあ、キリアン以外のみんなということだが。
キリアンが夜通し泣き叫ぶ声は俺の家の地下からも聞こえた。そのせいでなかなか寝付けなかったが、薬を口に放り込んで眠りについた。次の朝起きてみるとキリアンはもう叫んではいなかったが、それ以来彼の笑顔を見ることはなかった。彼の後をつけ始めたのはこの時のことだ。
キリアンはほとんどずっと地面を見て過ごし、前を見もしなかった。ほとんど話もせず始終鬱々と萎れていた。
人の死を嘆くことに何の意味があるのだろう。俺には分からない。俺の方はとっくに両親を食っていた。この世界での一生は短い。俺の知る人間たちはみな、ある時点で親兄弟や子供を食っていた。スカイフォールでは違うのかもしれないが、
キリアンの慰めとなったのは本のようだった。見たところちゃんと読めているようだ。彼は地面を見つめながら足を引きずって歩く代わりにぼろぼろの本に没頭した。
そして今日ここに来ているのもそういう訳だった。
いつものごとく距離を保ちつつ、アラスを取り囲むようにごつごつとそびえ立つ赤い岩の上に座ってキリアンが本を読むのを見ていた。愛用のM16はいつものようにしっかりと装填され、すぐに使えるように配置してある。コンバットナイフは足首に一つ、前腕に一つ、そしてベルトの鞘に一つストラップでくくりつけてあり、こちらも即座に使用可能だ。キリアンと違って俺には見張り役が付いていないので、どこに行くにも隙なく武装している。
耳の後ろに挟んでいたタバコを取ると古いガスライターでそれに火を付け、キリアンがぼろぼろの本のページを繰るのを見ながら、今朝手榴弾を入れたのと同じズボンのポケットにライターをしまった。
このグレイウェイストで起こるどのような事態にも対応する準備ができている。携帯できる限りの武器、そして衣服の選択に到るまで、俺の身に付けるものは全て戦闘を想定している。いつもの黒い防弾ベストは防具であると同時に寒い時期には防寒具にもなり、ベルトで胸にぴったりと調節できるので機動性を削ぐことはない。黒のミリタリーパンツには半ダースもポケットがあり、必要なものを隠しておくことができる。服の布地は厚いが、皮の膝当てと肘当てでさらに防備を固めていた。
対照的にキリアンの方はといえば、身につけているのはどこかで見つけてきた黒のジャケットと古いジーンズのみだ。このガキはどうも自殺願望があるらしい。崖の上から渓谷を覗き込む様子も気に入らなかった。
また一息タバコの煙を吸い込み、煙を口の端から吐き出しながら観察するに、まだ俺には気付いていない様子だ。もし気付いていたとしても、こちらを見上げてそれを知らせるようなことはしないだろうが。
キリアンは布の上の干し肉と古いソーダのボトルいっぱいに入れた水をそばに置き、ここより下方にある岩に座って読書を続けていた。気に障ることに、いつものごとく全くの非武装でだ。俺が護衛しているからいいものの、町の防御の外に銃どころかナイフの一つも持たずに出るのは自殺行為もいいところだ。全く馬鹿げた行動だが、もし俺が彼を絶対に一人でブロックの外に出したりしないということを分かってやっているのだとしたら、思った以上に賢いのかもしれない。
そうして座って考えている間に気付いたのは、俺たちがまだ一言も言葉を交わしていないということだ。誰もが俺から距離を置いており、俺もやつらに近付きはしない。やつらが俺を避けるのは敬意というより恐れからだろう。冷血で残酷な危険人物であるというのが俺の評判だったし、それを否定したことはない。ただキリアンがどう思っているかについては全く見当がつかなかった。尋ねはしなかったし、キリアンも何も言いはしなかった。両親が死んで以来、促されない限り誰に対しても礼儀正しい挨拶以上の言葉を交わすことは稀だった。
乾いた唇を舐め、静かに腰に下げたスキットルの蓋を回し開けて口に持っていったところで、水を入れてくるのを忘れたことに気づいて顔をしかめた。苛ついてスキットルで膝を打つとキリアンがソーダボトルから一飲みするのを眺めた。
こいつときたら、食べ物や飲み物といった類のことは忘れやしない。こっちは丸腰の馬鹿が缶詰の肉されないようにやきもきするのに忙しいってのに。
苛立ちを払い落とすと、募るのどの渇きを無視してキリアンの監視を続けた。別の人間であればとっとと飛び降りて彼の水を取って飲んだだろうが俺の柄ではない。先に言ったように、俺たちは一言も喋ったことがないし、なぜかそうし続けなければいけないかのように感じていた。どっちにしろキリアンにはそれほど話したいことはありそうにも思えなかった。
いや、もしかしたら話すことは沢山あるのかもしれない。おしゃべりなやつらの話は大抵中身がないものだが、物静かなやつはその限りではない。
キリアンは他のやつらとは違う。彼は若いが寡黙で、そこが気に入っている。本を手に取れば何時間も没頭し、無駄なおしゃべりはせず、音も立てないことには感心した。俺にとってもひとりきりであることは身に馴染んでいる。周囲に広がる赤い巨石は古くからの友だった。この
これほどの眺めは、ここと親友のレノの小屋の他にはない。高い岩に登れば険しい峡谷が何マイルも広がっているのを見ることができる。アラスの北側に広がる渓谷は、経験豊かなものだけが五体満足で通り抜けることができる天然の要塞だ。
南側は工場と廃墟が連なり、恐ろしいモンスターが徘徊しているので誰も近付かない。たまに
眼下に広がるノコギリの刃のような峡谷を見渡せば、時折遠くて鳴き声をあげる虫を除いては生き物の気配は何一つない。俺はニヤリとするとキリアンに素早い視線を投げた。いたずらを仕掛ける間、何も近寄ってこないことを再度確認する。
彼が本を読み終えるまで何時間も喉がからからのまま過ごす気はなかった。空から熱い日差しが照りつけている。夏が始まったばかりの暑い盛りであり、何か起きたときに熱中症で倒れるのは得策ではない。というのが、少なくとも俺の言い訳ではある。
物音ひとつ立てず動いた。俺の動きはいつも静かだ。峡谷で大きな音を立てるのはさして難しいことではなく、油断すれば自然は一瞬で危険な敵に変ずる。だが馬鹿なラットや放射線で頭がやられたレイバーと同じに考えてもらっては困る。人生の半分をこの峡谷で過ごしてきたのだ。そしてそう望むときには、俺の存在は影になる。
音もなく登ったときと同じように岩をくだると、下の岩床に軽い足音と共に着地した。動きを止め、キリアンが気付いたかどうか耳を澄ませるが、その気配はない。むろん気付くはずもない。レイバーやラッドアニマルが首に息を吹きかけようとも本から目を離しはしないはずだ。
キリアンの居る高さまで登っていくと、彼がもたれる岩の小山の反対側、ごつごつしたその岩肌に背中を押し付けた。静かに砂埃を払うと岩の向こうの彼が居る方を見やる。午後の日差しが落とす彼のシルエットと問題のソーダボトルが見えた。まさしく俺が狙っているものだ。
ひとり微笑み、唇を湿らせる。キリアンの手が岩の下から伸び、ボトルをつかむのが見えた。彼が口をつけるとペットボトルがぺこりと音を立て、次に元あった場所に戻す音がした。
完璧なタイミングにほくそ笑んだ。振り返って、キリアンにこっそり近付く間に何も背後に忍び寄ってこないことを再び確かめると静かに歩を進めた。
何一つ気付いていない少年に軽い忍び足で近付く。あまりに静かなので、彼の唇から漏れる息の音を聞くことができた。近付くにつれてキリアンの体の隅々までよく見えてくる。彼の後頭部は鷹が己の領地を睥睨するかのように完璧に静止しているが、覗き込んでいるのは獲物ではなく本だ。彼の心は遠く素晴らしい世界に運ばれているのだろう。木々は青く動物たちの毛はきれいに生えそろい、食べ物は見たこともない彩りにあふれ、親切で好ましい人々がいる世界。
もう地上のどこにも存在しない世界。もしかしたらスカイフォールにはあるのかもしれないが、
キリアンの金髪は日差しにきらきらと輝いている。金の房は耳より長く垂れ、本を読むときにはいつも顔にかかる髪を耳の後ろに撫で付けていた。彼の髪は清潔で、ここからでも石鹸の匂いがした。なんと違う匂いがするのかと一瞬苛立ちを感じる。ここからスカイフォールまでの全てのラッドアニマルをその匂いでおびき寄せそうだ。しかし、これほど陶酔させる香りを嫌うことはできなかった。
彼の異質さに引きつけられていた。ブロックに住む大抵のグレイウェイスターのようなひどい臭いを嫌っていることも。俺はなるだけ清潔を保つようにはしていたが、粗末なバスタブで湯浴みするよりやるべきことはいくらでもある。俺は歩哨であり、その仕事は監視だ。いちいち泥をきれいに落としてはいられない。
というのが俺の言い訳だが、少なくとも
え? 俺は誰に褒めてもらおうとしているんだ? キリアンが俺をどう思おうがどうだっていいはずだ。目を合わせたことすらほとんどないってのに。
とはいえ———。
自分の手が、キリアンの金の髪に向かってぴくりと動くの感じた。梳いたら指の間でどんな感触がするだろうか、と束の間夢想する。唇を舐めると、ここに忍び寄ったそもそもの理由を自分に思い出させた。ソーダボトルに視線を移し、にやりとする。
キリアンは全く気付いていない。二歩と離れていない距離だったが、それでもだ。本に夢中で上の空。これには常にいらいらさせられる。今この瞬間、背後から忍び寄って喉を掻き切り、何が襲い掛かったのか気付きもしない間に
干し肉を手にとって齧るキリアンを身をかがめて見ていた。まるで今すぐにでも飛びかかろうとでもいうように。もしそうしたければ今すぐ手を伸ばして彼にさわることができる。二人の間を隔てるのは、数フィートのちょっとした赤岩の小山と黄色い草の茂みだけだ。
右手を岩に添えると体を前に倒して空いている方の手をソーダボトルの方向へ伸ばした。ちょうどその時、キリアンは大判のテキストのページをめくった。俺は即座に動いた。めくったページが反対側に着く前にボトルは消えていた。次の一瞬で俺の姿も消えた。キリアンが気付いたかどうか確かめるために留まりはしない。ボトルを手にするやいなや影の中に舞い戻り、次の瞬間には元いた岩の上で《灰色の荒野》を眺めていた。
漆黒の髪をかきあげ、何も知らない少年がページを繰るのを眺めてほくそ笑む。キャップをひねると戦利品に口付けてたっぷりと飲み、満足げに音を立てた。
キリアンはその音に驚いて少しばかり飛び上がったが、振り返ることはしなかった。
「やっと気付いたか」とひとり呟くとがぶりともう一口飲んだ。
キリアンは頭をかくと小さなため息を漏らした。テキストから目を離さずにかたわらの水のボトルを手探りする。ぴくりと動きを止め、本から目を離すと背をそらして小山の傾斜が下り始めるあたりを見渡し、ボトルが見当たらないことに気付くと姿勢を戻した。
読んでいた本を閉じると、この不可思議を理解しようとしているかのようにその姿勢のまま完全に動きを止めた。
俺はにやりとし、思わず忍び笑いを漏らした。キリアンは振り返るとこっちを見上げた。俺は素早く目線を外し、谷底を熱心に観察し出した。
目の端でキリアンが顔をしかめるのが見えた。俺が得意に思うほど、この早業に感銘を受けてはいないようだ。キリアンは今にも何かを言いそうに見えたが、不意に動きを止めた。軽く岩を踏みしめる音を聞いたのはその時だ。危うくソーダボトルを投げつけるところだった。
俺は動きを止めると耳を澄ませた。キリアンも気付いており、怯えた視線を投げると立ち上がった。岩床に着地すると伏せ、流れるような動作で素早くM16を取り、射撃位置に付けた。鼓動が早鐘を打ち、キリアンと自分の間の距離を痛烈に意識し始めた。
考えるまでもなく、こちらに向かってくる何かがキリアンに襲いかかる前に仕留めるのは不可能だと悟っていた。また、この位置からキリアンのところまでジャンプするには遠すぎるということも。良くて骨折というところか。あらゆる罵り言葉を呟きながら、侵入者が現れるだろう岩の角にライフルの銃口を向けていた。
何であろうと向かってくるものを撃つしかない。キリアンが俺と獲物の間に立ち塞がらないだけの分別があることを祈るのみだ。
音が止まり、俺は息を止めた。悪態をつくと腹ばいに断崖の端まで進み、目を細めて銃を握り直す。獲物が岩の後ろから姿を現し、射程に入るのを待った。
(Part 2に続く)
(ブログ主コメント)
キャーーー危険人物リーヴァーにストーキングされているキリアン少年はどうなってしまうのでしょう! リーヴァーはキリアンを守りきれるのか……! そして、 この荒涼としたポストアポカリプス世界。人類の版図は今や王都スカイフォールと《灰色の荒野》に点在する都市だけであることが伺えます。人類は廃棄物と廃墟に手を入れて、ファロコースト《大破壊》前の遺産と奇妙な生き物を家畜にしてどうにか食いつないでいるような状態です。見慣れない固有名詞が出てきますが、この後リーヴァーがちょくちょく説明してくれますので、ご忍耐のほどを。お察しにようにリーヴァーの興味範囲はかなり限られているため、よく分からないことがかなりありますが、それも後々判明してくるのでご辛抱くださいね〜。また、誤字脱字、意味がわかりにくい部分、その他ご指摘などありましたらコメントやツイッターなどでお知らせいただければ幸いです。
Part2 はこちらです。
ポストアポカリプスBL「Fallocaust」用語集 解説付き
全私が狂っているポストアポカリプスBL「Fallocaust」布教シリーズの2つ目、用語解説です。ちょくちょく追加するかもしれません。
あらすじや人物紹介は過去記事に書いていますのでどうぞよろしくお願いします。
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行政区分
Skyfall <スカイフォール>
:首都。旧バンクーバーアイランド。王族とエリートの住むSkyland <スカイランド>とEros <エーロス>、ミドルクラスの地区Nyx <ニックス>、ローワークラスの地区Cypress <サイプレス>、最下層のスラムMoros <モロス>。本土とは橋で繋がっており、本土側には工場町がある。キリアンの出身地Tamerlan <タマラン>はこの工場町の一つ。
というかまず、このお話の舞台はカナダのブリティッシュコロンビア(BC)州です。BCは西海岸でバンクーバーがあるところですね。バンクーバーは太平洋に面し暖流の影響で内陸部より気候も穏やかな素敵都市ですが、ポストアポカリプスBLなのでほぼ廃墟です。
多分作者がBC州に住んでるんじゃないかな。本文中の単語の綴りがちょくちょくイギリス式だけど言い回しはアメリカ俗語だったりするのがカナダっぽいですね。バンクーバーはアジア系コミュニティが大きいですが、本作にもアジア系と思われるキャラクターがチラッと出てきます。
Greywaste <グレイウェイスト/灰色の荒野>
:スカイフォール以外の放射線に汚染された土地。ガイガーチップを埋め込まれていても、グレイウェイストの外Plagueland <プレイグランド>はさらに放射線汚染が激しく人は住めない。
Block <ブロック>
:グレイウェイストにある町で政府に納税する代わりに補助金や補給などの恩恵を受ける居住区。第一部の主人公が住むアラスはブロックだが、Tintown <ティンタウン>のようなブロックではない自由都市もある。
都市・地域
Aras <アラス>
リーヴァーが育ったグレイウェイストのブロック。北側には赤岩の迷宮のような峡谷(canyon) が広がる。ブロックのリーダーは代々メリック家が務めており、第一部の時点でグレイソン・メリックとパートナーのレオが市政を行なっている。
Blacksands <ブラックサンズ>
アラスの南の地域。廃墟になった都市と工場・研究所が点在する。研究所の実験でできた突然変異種やモンスターが跋扈しており危険らしい。Blacksandsと呼ばれる地域がどのくらいの広さなのかは不明だが、アメリカの都市シアトルが含まれている。*1
Anvil <アンヴィル>
アラスに近いグレイウェイストの大きい都市。アラスから峡谷沿いに行ったところにあるため、車両よりボーセンに引かせた荷車や徒歩での移動となる。アラスから働きに出たり、アラスの住人の親族が住んでいたりする。ネヴァダ家のレノの兄弟ヴェガス(Vegas)が住んでいる。
Donnely <ドネリー>
高濃度放射線のため、数年前まで立ち入り禁止だった廃墟の町。アラスからクワド(四輪バイク)で東に3、4時間ほど走った場所にある。
Tintown <ティンタウン>
アラスの北西にあるブロックではない自由都市。こことアラスの間にレオとグレイソンが利用していたバンカー(隠れ家)があると思われる。*2
Taggertown <タガータウン>
アラスに近い南方に位置するブロック。アラスより大きく、壁に囲われている。*3
Gosselin <ゴセリン>
破壊されたぺリッシュのラボがあったグレイウェイストの古い町。詳しい位置は不明。
Kreig <クレイグ>
スカイフォールの北東方向に位置するラボがあった町。 旧Okanaganの近く。
Dead Islands <デットアイランド>
スカイフォールの南東方向に位置する島々。ファロコースト前の生き物を飼育している研究所/基地や、スカイフォールのエリートたちが訪れる観光地がある。
生き物
Arian <アリアン>
: 普通の人間。ファロコースト後にサイラス王が名付けた。
Chimera <キメラ>
:サイラス王が遺伝子操作で作ったデザイナーヒューマン。サイラス王の家族という位置付けで姓はDekker <デッカー>。変わった目の色をしていることが多い。頭脳、戦闘能力等の目的別に様々な特殊能力を付与されている。
Sub-humans <亜人類>
Rat <ラット>
:放射線の影響で普通の人間から分かれた亜人種。アリアンの食料。アラスではラットの繁殖・飼育を行っている。
Raver <レイヴァー>
:放射線の影響で知能が低下し、体が腐り落ちても痛みを感じなくなった亜人種。見た目はラットより人間に近い。イメージとしてはゾンビ。アリアンを襲って生きながら食べる。アリアンもレイヴァーを食べる。
家畜
Bosen<ボーセン>
: 牛のような生き物。荷車を引いたりする。食用にもなる。
Deacdog <デクドッグ>
:デーコンと犬を掛け合わせた生き物。人に馴れる。ガイガーチップを埋め込まれているため放射線の影響を受けずに毛が生え揃っている。
Chicken
:普通のニワトリ。卵もあるが、スカイフォール以外では非常に高価。
野生動物
Radanimal <ラッドアニマル>
: 放射線(Radiation)に冒されて凶暴化・巨大化した生き物。
Radrat <ラドラット>
: 放射線(Radiation)に冒されて凶暴化・巨大化したネズミ(ラット)。猫ぐらいの大きさがあるものも。
Scaver <スキャヴァー>
:放射線(Radiation)に汚染されたオポッサムに似た生き物。小型犬くらいの大きさで鋭い牙を持つ。(Fallocaust p188)
Deacon <デーコン>
:放射線の影響で巨大化・凶暴化した狼のような生き物。リーヴァーの住むアラスでは壁外の囲いにデーコンを飼っていて、よそ者が来ると唸り声で分かるようになっている。人に馴れることはない。
Urson <ウアソン>
:放射線の影響で巨大化・凶暴化した熊。
Cat <猫>
:家猫もいる。サイラス王(とキメラ)が猫好きらしく、猫をたくさん死なせると罰金が課される。ガイガーチップを埋め込まれている。
食品
"Good Boy <グッド・ボーイ>"(商品名)
:自然死したアリアンか死刑囚の肉(と言われている)。(Fallocaust p69)
"Fois ras <フォア・ラ>"(商品名)
:人間版フォア・グラ。美味しいらしい。作り方はグロい。
嗜好品
Cigarette <シガレット>
:Cig(シグ)とも。スカイフォーラーもグレイウェスターも大好きなタバコ。スカイフォールのタバコは火が青い。普通のタバコの火は赤い。
Quil <クィル>
:リーヴァーのオリジナルタバコ。Weed(マリファナ)に似ている(が効果が薄い)葉っぱを栽培していて、鎮静剤と混ぜて巻きタバコにしているらしい。ちなみに、作者の名前もQuilである。
Dilaudid <ディラウディド>
: リーヴァー愛用の鎮痛剤(オピオイド)。潰して粉状にしたものを鼻から吸うのが定番。経口より早く効くらしい。
会社
Dek'ko <デッコー>
:食品や日用品などを取り扱う会社。信頼のロイヤルファミリー直轄ブランド。キリアンの父が働いていた工場はデッコー。買い物に使えるのはデッコー token<トークン>(商品券)のみで、従業員の支払いもトークンで行われる。社長はApollo Dekker<アポロ・デッカー>。(Fallocaust p69)
Skytech <スカイテック>
:ロイヤルファミリー直轄のサイエンス研究機関。薬や化学薬品等の販売も行なっている。キメラを作っているのもここ。各地に工場や研究所を所有。代表はGarrett Dekker<ギャレット・デッカー>。
科学技術
Geigerchip <ガイガーチップ>
:国から支給され、新生児や許可された一部の動物に埋め込まれるチューブ状のデバイス。放射線の影響から生体を守る物質を放出する。高級なものだとビタミンサプリを放出する機能などもあるらしい。
Genetic engineering <遺伝子工学>
:キメラを生み出した科学技術。スカイテックの研究により発展を続けており、キメラに様々な能力を付与したり動物を掛け合わせたモンスターを作ったりしている。
Sestic radiation <セシ放射線>
:ファロコースト独自用語。サイラス王が放出した放射線で、生物にとって有害であり、電子機器を故障させたり、ものを保存しやすくする効果があるらしい。そのため、グレイウェイストの古い缶詰などがいまだに食べられる。
Life expectancy <平均寿命>
: ほとんどは35歳までに死亡する。60歳は高齢。(Fallocaust p70)