第七官界の中心で咆哮する

イチオシのカナダ発ポストアポカリプスBL小説『Fallocaust』をはじめ、英語のM/Mロマンス(BL)を中心に、BL小説などをレビュー。

【ポストアポカリプスBL 翻訳】Fallocaust《ファロコースト》第1章 Part 2/2

第1章 Part 1の続きです。

 

Fallocaust《ファロコースト》第1章 Part 1 はこちら

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Fallocaust《ファロコースト》第1章 Part 2

(Part 1 の続きです)
 
 「きっと今、俺に銃で狙いを付けているいるんだろうな?」馴染みのある声が岩の後ろから響いた。
 胸を締め付けていた緊張が即座にほどかれ、安堵から大きなため息をついた。そして立ち上がる。
 「ご明察」別の男の声が笑いながら答え、視界に現れた。ブロックのリーダー、そして俺にとって親に一番近い存在グレイソンが手で日差しを遮りながらこちらを見上げた。
 「うむ、悪ガキが見えるぞ」
 笑って言う。そして明るい色の頭が隣に現れた。グレイソンのパートナーのレオだ。ふたりは面白くて堪らないといった様子で揃ってこちらを見ている。
 「Unschuldigウンシュルディッヒ あるところ Teufelトイフェル ありってな」レオがニッと笑うと目の端にしわができた。「ちょうどその悪魔を探してたんだ。リーヴァー、明日の朝はやくこの道を商人のキャラバンが来ると連絡を受けたところだ。チフス川の水位が下がる時期だからね。さあさあ二人とも戻った戻った。トロイの木馬に備えて建物を封鎖しなけりゃ。」
 俺は不満の声を上げ、ライフルの端でこめかみを掻いた。キャラバンはこの辺境では珍しくいつでも歓迎されるが、それなりのリスクも伴う。ほとんどの場合なんら対処できないものではないが、キリアンのことを考えると警戒してし過ぎることはない。
 トロイの木馬はもっとも厄介な問題だ。レイバーや悪意の人間が商人を装って侵入し住民を攫って身代金を取ったり、金や物資を強奪する。そういったことは長い間起きてはいないものの、警戒を解いたが最後、町中が虐殺されて食われることになる。
 「キャラバンが来るのは冬先以来だな」
 警戒する必要があるとはいえ、商人が来るのは嬉しかった。いくつか補充したいものがある。
 ライフルをホルダーにしまうと踵を返し、岩の上からついさっき這い進んできたばかりの方向へ向かって歩き出した。素早くほとんど足が地面に触れないような足取りで、他に目もくれずにぐんぐんと元来た道を辿っていく。
 「キャラバンに在庫がたくさんあることを祈るよ。医薬品が足りていなくて、ドクがぶつくさ言い始めているからな」グレイソンが背後から言った。それに対しては肩をすくめ、3メートルほどの急斜面の上で少しの間止まると、岩から岩へ軽々と飛び移りほとんど音を立てずに下の地面に着地した。
 振り返って腕を組むと、他の者たちが注意深く斜面を降りるのを焦れて見ていた。
 「そのうぬぼれ顔を引っこめろ、敏捷なやつめ。誰もがお前みたいに若くて無鉄砲じゃないんだ」グレイソンが不満げに言う。ちょうど40歳になったばかりのグレイソンは岩のように頑健ではあるものの、俺ほどに俊敏ではなかった。
 俺のようなやつは誰一人としていやしない、とひとりごちる。ブロックの外に忍び出るようになって以来、子供の頃からずっとこの岩をよじ登っていたのだから。第二の天性と言ってもいいだろう。
 グレイソンとレオが一緒に最後の岩棚から地面に飛び降りるのを見ていた。グレイソンは黒髪の生えぎわから汗を拭うと布をレオに渡した。もう一時間もしないうちに日がくれるというのに暑い日だ。
 薄汚れた灰色の空から目をそらし、断崖にいるキリアンを見つめた。
 その様子は見るだに情けないものだった。重い本が詰まったリュックサックが背からずり下がり、斜面を降りるのに苦労していた。手助けしようと体がぴくりと動いたが、思いとどまる。丸腰で町の外に出る子羊を守ってやるのはいいとして、四六時中エスコートする予定は無い。顔から地面に着地しようと死ぬわけではないし、重いものを持って歩かないことを学ぶにはちょうど良いかもしれない。
 だが彼が転ばずに地上に降りたときには安堵した。周りの人間が苦しむのを見て楽しむ俺にしてはおかしなことだ。
 もう少しさっさと降りきって欲しいものではあったが。彼が地面に降り立った頃にはすでにレオとグレイソンは五、六メートル先を歩いていた。群れから離れて歩くのは賢い選択ではないが、俺も他の二人も脱落者を待ってやるタイプの人間ではない。脱落者は食われる。そして脱落者が食われていれば捕食者を足止めできるのだ。
 キリアンは深く息を吐くとリュックサックの位置を直した。彼が歩き始めると俺は一歩下がって峡谷の斜面を見ていたが、目の端で彼がこちらを見ているのを察知していた。ほんの数歩先をよい香りをさせながら通り過ぎる。彼は目を合わせようとしていたが、俺はそちらに向き直って話しかけたりはせず、彼の存在に気付いた様子すら見せなかった。
 なぜかって? それは俺にも分からない。俺はそういう性格だし、向こうも空気を読んでいた。
 キリアンが数歩まで通り過ぎたとき何も追ってきていないことを確認し、俺も後を追った。背後から攻撃を受けるなら、標的は自分である方が好ましかった。少なくとも俺は武装しており戦闘経験も豊富だ。
 背後を確認しながら、こちらに向かっているキャラバンについて考える。アラスへの訪問者は稀だ。そしてそれがこのブロックが安全である理由だろう。

 普通のキャラバンはアラスまで来ることはない。傭兵ですらここまで来るとなればかなりの金額を要求する。それほどこの峡谷地帯は厳しいのだ。峡谷はたくさんの危険を育み、内に抱えている。険しい岩々は狂気に冒された野人レイバーと呼ばれるを隠し、深い洞窟はラットが惨めな生から逃げ出して隠れ潜むのに最適だ。しかしこれらの亜人サブヒューマンは、放射線によって凶暴化したラッドアニマルに比べればどういうことはない。やつらは岩々の間を這い回り、肉が付いているものなら何にでも食らいつくのだ。
 アラスの北の峡谷は、四方に何マイルも広がる岩の厚板が作る巨大な迷宮だ。峡谷は深く急峻で、巨石が広大な谷底に永久の影を落とす。チフス川はどこかでその谷底に流れ込み、最終的にはアラスから数百マイルも離れたチフス湖に至ると言われているが、それを見て帰ってきたものはいない。地形でいえば南はそれほど悪くはないが、恐怖はこっちの土地にも息衝いている。
 アラスの南、俺たちがブラックサンズと呼ぶ土地は《灰色の荒野》グレイウェイストの他の場所と同じく、廃墟と化した町が点在している。しかしそこに禍々しい花を添えるのは工場と研究所ラボだ。この辺りを旅する傭兵たちから聞かされる噂によると、研究所で行われている邪悪な実験の産物である突然変異種や、放射線によって気が狂ったミュータントが町々を徘徊しているという。それもこれもサイラス王の科学研究機関 Skytech スカイテック のおかげというわけだ。

 ゲートが音を立てて開くの聞いて目を向けた。少し先を行くグレイソン、レオ、そしてキリアンは安全な町の中へ入って行くところだった。
 「リーヴァー、他に出ている者は?」ゲートに近づくと歩哨の一人に話しかけられた。
 「いない」とシンプルに返す。
 彼女はサディといって、俺と同じ歩哨の仕事をしている。ガキの面倒を見るため、シフトは半分だが。
 サディが俺の背後でゲートを閉め始めると、錆びた金属が擦れ合う馴染み深い音が聞こえてくる。アラスに入るには二つのゲート通る必要がある。どちらも手動のクランクで開け閉めするのだが、間には “隔離エリア” と俺たちが呼ぶスペースが設けられている。ここには三つ目のゲートがあり、これはブロックを囲むフェンスの中、大狼デーコンの居るところに通じている。このスペースは好ましくない客人を迎えた際に役立つことになる。
 「今日はシフトに入ってる?」俺が二つ目のゲートを抜けるときサディが聞いてきた。頭に付けていた暗視ナイトヴィジョンゴーグルを下ろしている。ゴーグルのスイッチを入れるとハイピッチの機械音が聞こえた。
 「いや、今夜は非番だ」そう答えながら、キリアンがメインストリートを歩き出すのを見ていた。家に向かうのだろう。
 「そう。じゃあ良い夜を」これに対して頷くと道を歩き出した。グレイソンが声をかけてきたのは、キリアンの後を追おうとしていたときだった。
 「リーヴァー、デーコンに餌をやるのを手伝ってくれるか?」
キリアンから目線を引き離すと肩をすくめて「ああ」と短く答える。キリアンを追いかけて家に帰り着くのを確かめたい気持ちがしたが、危険はないと分かっていた。
 盗んだソーダボトルから一口水を飲み、グレイソンを追って屠殺場スロート ハウスへ向かった。
 屠殺場はまさしくその名の通りの場所だ。大きな倉庫の廃墟で、食料にするラットを育てている。アラスの労働力のほとんどはこの屠殺場で働いており、住民とデーコンに十分な食料が行き渡るよう気を配っていた。これはフルタイムの仕事で、病気が発生しないよう清掃し、ラットの数を十分に保つよう交配と捕獲を行なっているが、ここの従業員を羨みはしない。ここの酷い臭いは堪え難い。デーコンどもは臭いなど気にはしなかったが。食い物は食い物だ。やつらは腹が減れば自分たちすら食うだろう。
 背後を振り返って見ると、獰猛な番犬デーコンたちが《灰色の荒野》グレイウェイストに逃げ出さないように囲っているフェンスの中をゆっくりと歩いているのが見え、血に飢えた喘ぎがここからでも聞こえる。腹が減っているのだ。一日に二回、毎回同じ時間に餌をやるので、もうすぐであることを知っていた。
 野生のデーコンはひどく獰猛な上、放射線のせいで気が狂っているのだが、俺はやつらを気に入っている。歩哨としてアラスを守るのに、警戒の目が多くて困ることはない。よそ者がブロックに近付けば激しく吠え、近くにいたら耳鳴りがするほどだし、やつらの唸り声は肋骨を震わせる。混血の狼犬ハーフデーコンはそれに比べると大人しいもので、アラスでは交配して商人や軍兵団に売っている。こいつらはチップを埋め込まれているので、放射線で脳をやられることもない。
 デーコンの群はアラスの町中から高4.5メートル、厚さ60センチのコンクリート壁で隔てられている。歩哨はこの壁の上を歩いて監視をするのだ。デーコンは、町をぐるりと囲む壁と外側のフェンスの間の5メートルほどの空間に放し飼いにされている。コンクリート壁がデーコンから町の住人を守り、レーザーワイヤに覆われたフェンスが大狼どもが荒野にさまよい出るの防いでいる。
 ゲートを訪ねることなくアラスに侵入しようとする命知らずは、それなりの障害を乗り越えなければならない。この番犬たちはその辺りを歩かせておくには危険すぎるので、壁とフェンスで隔てるのは人の方が不用意に近付かないようにする意味もある。
 俺はグレイソンに続いて屠殺場へ向かっていた。その建物はラット・ストリートと名付けられた道沿いにある。アラスでは通りの名を示した案内標識はとっくに失われていたが、道路標識やスクラップ車のフロントガラスにスプレーでペイントすることで標識としての機能を持たせていた。俺の家の前の道は、アヘンの粉を散らしたホームメイドのタバコの名に因んでクィル・ストリートと名付けた。俺が住み着く前は別の名で呼ばれていたが、ある時飽きて新しく名前をつけることにしたのだ。ただ、グレイソン、レオ、そしてレノ以外の誰も俺の住んでいる場所を知らないよう気を付けている。その方が安眠できるのだ。
 ラット・ストリートを数ブロック歩くと、倉庫の駐車場に近付く。しかし駐車場というのは名前だけで、舗装はずっと前に壊れてかなりの部分が剥がれていた。錆び付いた車と廃棄物は脇にどけられ、配給トラックが通れるようになっている。積み重ねられた廃棄物デブリはアラスの他の場所と同様に野良猫の住処になっていた。猫はガイガーチップによって放射線の影響を受けずに済んでいる数少ない動物のうちの一つだ。猫はラドラットやスケイバーの数を抑えるのにも役立っている。
 いくつかの使用可能な車とトラックが建物の前に止まっており、荷積み場にはさらにいくつかの車両があった。荒野には動く車はほとんどなく、大半が錆び付いている。動く車は貴重であり、欠かせないものだ。アラスでの最も厄介な問題は、ラットが集団で逃走して暴れることだが、ことが起こった場合に射撃練習をできるのは面白い。
 アラスの住人はみな徒歩で移動する。道の多くは廃棄車やデブリに塞がれていて、車を通せるのは屠殺場と中央スクエアの間だけだ。
 ブロックの外、《灰色の荒野》グレイウェイストでは、ボーセンが引く荷車か徒歩で移動する。もし予算が許せば四輪バイククアドや多目的車両もあるが、荒野は非常に障害物が多く、道は古びて壊れており、少なくとも辺境では徒歩が一番楽に移動できるのだ。
 グレイソンは屠殺場の正面扉を叩き、二人とも一歩下がって待った。しばらくすると二重の金属扉が開き、白髪混じりの男が現れた。
 「ああ、犬どもの餌の時間だな」と男はいくつか歯の欠けた笑顔を見せた。この男は俺が覚えている限りずっと屠殺場のボスだった。
 「その通り」グレイソンは快活に答えると中に入ろうと踏み出したが、老ゲイリーは立ちふさがって腕を組み、怪訝そうに眉をあげて尋ねた。
 「彼も入るのかい?」頭を傾げて俺の後ろを見ながら言った。グレイソンと俺は振り返り、ゲイリーの指し示している所を見やった。

 俺は驚きに目を見開いて見つめた。俺たちの十歩ほど後ろに立っていたのは、ここで見るとは全く思っていなかった人物だった。

 
第二章へ続く

 

(ブログ主コメント)

 やっとこの世界の様子が分かってきました。この特殊な放射線で満たされた世界では、色々と変わった生き物がいるようです。今回でだいぶ解明されましたが、今後もちょこちょこと説明が挟まれます。カナダの荒涼とした自然の地形(はい、舞台はカナダのブリティッシュコロンビア州です)と恐ろしいモンスター。登場人物たちはかなり厳しい環境に生きてますね。そしてリーヴァーはこれまた社会性に問題がありそうな人物で……。

まだまだ序盤ですが、第二章も訳していきますので、原作のご購入・Unlimitedでのご利用、よろしくお願いします。また、誤字脱字、意味がわかりにくい部分、その他ご指摘などありましたらコメントやツイッターなどでお知らせいただければ幸いです。

 

続きの第二章はこちら 

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